催眠療法とはどのようなものか その長所と短所

いろいろある催眠状態

 催眠状態を説明するのに、例えば電車の中でウトウト状態にある時と同じだといいます。もちろんそれもひとつの催眠状態です。催眠誘導者のリラックス中心の暗示効果で、リラックスが深まってウトウトしてきたのです。催眠にはほとんど入ってないのに、催眠誘導者がゆっくりゆっくり穏やかに声をかけてくるので、ついウトウト眠くなってしまう被験者も結構いるかもしれませんね。

 催眠状態はウトウト状態だけではありません。深い催眠状態に入ってしまって誘導者に「あなたは鳥だ。空を飛んでいる」と暗示されたとします。信頼できる誘導者には安心して自分を委ねられますから、素直にその気になって空を飛びます。より深い催眠状態になればなるほど、まるで全身鳥になってつい手を羽のように羽ばたかせてしまいます。もちろん身体は空中には浮きません。でも心は飛んでいます。

 活動的な催眠暗示に反応すれば活動的になるのが催眠トランス状態です。催眠暗示によって導かれれば、ウトウト状態にも、その反対の活動状態もにもなるわけです。 それがあるので、催眠療法によって、今までうまくできなかった心と身体の一体感を会得したり、日常の自分の枠を越えて自分の内にある感情を発散したりもできるのです。

 催眠状態を説明するときに、催眠に入っている時はちゃんと意識もあり、周囲の物音や人の声も聞こえ、話すことはもちろん質問に答えることや、それに答えることを拒否することもできると説明されている場合があります。でもこれも、そう暗示すればそうなるというようなものです。深い催眠状態に入るほどに我を忘れてしまうので時には催眠状態の時の記憶がすぐには戻らない場合もあります。

深く入るにしたがって我を忘れていく催眠状態

 また催眠は催眠誘導者の暗示を受け入れることを望まない限りは成立しない。と説明されていたり、結局は催眠に入る人が自らどこかでそれを望んでいるからこそ催眠に入れるのだと言われていたりもします。 もちろんどんなに深い催眠状態に入っても意識が全てなくなるわけではありません。倫理観も残ってはいます。けれども催眠に深く入った人でその体験を、まるで夢のようだったと言う人もいます。催眠状態が深まるほどに自我意識のコントロール力は弱くなるのです。

 これはお酒で酔っぱらうのと同じことなのです。お酒を飲んで上手に酔っぱらうと開放的になります。言いかえると通常の自我意識の判断力や思考力がアルコールの力によって麻痺してくるわけです。催眠はアルコールの力は借りてませんが、同じに通常の自我意識の判断力や思考力を失わせるようにしていくわけです。両者の心理現象は随分似通っています。

トランス状態

 催眠トランス状態といわれと何か特別の意識状態のように思えてきます。でもトランスと言われる状態は、何も催眠術の専売特許ではありません。人は皆、日常生活でトランス状態と同じような体験をしているのです。先に例えに述べた、お酒を飲んでいい感じに酔っぱらった時にも似ていれば、何かに夢中になっている時。例えばテレビに集中していたり漫画や、小説を時を忘れて読んでいる時などとほとんど同じ状態なのです。催眠状態に入った人を外から見ると、まるで魔法にでもかけられたように見えて不思議です。でもコンサートで盛り上がっている聴衆も似たような心理状態だし、ウルトラマンになったつもりで遊んでいる子供も同じ心理状態なのです。

 人はそんなふうに何かに我を忘れて夢中になっている時、自然に無意識でストレス発散、解消などの心の調整を行っています。我を忘れて自己解放することは人の心身の調整や生き甲斐に必須のものなのですね。信頼できる催眠誘導者にリードしてもらうと、とてもスムースにその状態に入れます。これが催眠が役立つ一番の理由です。

催眠療法の長所と短所

 催眠療法ではクライアントにできるだけ深い催眠状態に入ってもらって、療法を行うことが一番役立ちそうにみえます。確かに深い催眠状態に入ったクライアントに治療者が、心強い暗示を送り込んでクライアントを支えることは治療的にとても役立つものです。 ただこのやり方の欠点は、浅い催眠状態では効果がほとんどないことです。また深く催眠状態に入ることで強く支えられる分、クライアントが自立ができにくくなる場合があります。催眠療法に限らずともカリスマ的な治療者に支えられたままになってそこから抜け出せないでいるクライアントもいるのです。

 またそのような心理治療のあり方では、無意識の方は変わったけど自我の方の癖になっているパターンは昔のまま残っている場合があります。それだけでは同じようなことをくり返してしまって最終的な解決にならないのです。 そこで心理療法では、クライアントはカウンセラーに支えられながらも、でも全面的に頼るのではなく、自分自身も冷静な意識を持って、自分の心に向き合うようになることがとても大切だったり必要だったりします。その点『インナーセルフ療法』は催眠イメージを用いながらも「自分対内なる自分」という形で自分に向き合えるのでとても有効です。

治癒に役立つ創造的な催眠状態

 上手に催眠状態に入ると意識が思いつかないような自律的な、それもリアルなイメージが現れたり、それが展開しはじめます。それらは時にとても苦しかったり、おもしろかったり、不思議だったりもします。 クライアントの心の深層からそのように現れてくるイメージに、クライアントと治療者の二人で向き合って取り組んでいくことがクライアントの問題解決や治癒に非常に役立ちます。これは催眠療法以外の心理療法とも根幹では共通です。これによって心がより成長するので心理的な問題が解決に至るのです。

 このように自分もしっかり保ったうえで深い催眠状態に入れる(イメージの世界に没入していける)というような矛盾したあり方は、創造性を発揮するための秘訣でもあります。その両方の能力をより持てば持つほどに創造性を最大限発揮できるのです。

 クライアントの心の深層からそのように現れてくるイメージに、自分を見守るクライアントと治療者の二人で向き合って取り組んでいくことがクライアントの問題解決や治癒に非常に役立つのです。これは先に述べたように本格的な心理療法では共通する基本のやり方です。

 ※このように自分もしっかり保ったうえで深い催眠状態に入れる(イメージの世界に没入していける)というような、相矛盾したあり方は創造性を発揮するための秘訣でもあるのです。その両方の能力をより強く持てば持つほどに創造性を最大限発揮できるわけです。

催眠療法が得意とする心理技法

 催眠療法ではクライアントを催眠状態に導いた後に様々な心理技法を用いて治療をします。応用がきくのでその分、技法の数が多くなります。主な催眠技法をピックアップしてみましょう。

 ①ただ単純に暗示を入れる古典的な暗示療法。②できるだけ深い催眠状態に導いてそこで深いリラクゼーションを体験してもらうリラックス療法。③訓練的な行動療法やメンタルリハーサル法。④潜在意識から自律的に浮かんでくるイメージと向き合っていくイメージ面接法。⑤過去のトラウマを探す退行催眠法。⑥内なるもうひとりの自分と向きあうインナーセルフ療法。⑦私はほとんどやりませんが生前まで遡る前世療法もありますね。

 これらの技法はそれぞれに持ち味があります。そのどれもが万能選手とはいえませんが、適材適所で用いればとても効果的です。けれどもこれら以外に催眠だからこそできる、といえる素晴らしい技法が催眠にはあります。催眠状態を体験していると自然発生的に、物事を成し遂げようとするさいに必須の集中力が倍増します。ですから催眠状態を気持よく体験するだけでそのコツが会得できます。さまざまなことに取り組む時、自分の能力を最大限発揮できるコツがつかめるわけです。

 例えば勉強する時でも、我を忘れて夢中で勉強できた時にはアッという間に時間が過ぎています。没頭する力によるものです。スポーツの場合にメンタル面の大切さがよく強調されます。それがこの没頭力(集中力)です。 集中力は、もちろん自分一人でも養うことはできます。けれども信頼できる催眠誘導者にリードしてもらうと、自分一人でトレーニングを行うより何倍もイメージ力がアップします。その体験からより深く強く集中できるコツが会得できるわけです。

 ところで、悩み苦しんで来談されるクライアントのほとんどの方が、心と体がバラバラ状態になっています。来談以前に、問題を解決しようと一人で考え、自分をコントロールして乗り越えようと頑張るだけ頑張ってきたのです。でもうまくいかず、疲れや焦りが増すばかりの悪循環に陥ってしまっています。 まじめで健気な人ほど小さいころ両親や大人からしつけられたように、理想の自分になるために自分を強くコントロールします。また学校で「よく考えて答えを出しましょう」と学んだように、頭を使って一生懸命考えます。その分、葛藤が増え心と身体が解離してしまったのです。

 ここを乗り越えるためには、今までの人生で癖になっていた、何ごとも頭(意識)や意志力で頑張って乗り越える。というやり方を横に置いて「本来のありのままの自分や、からだ自体の持つペースでやっていく」というあり方への転換が必要です。

 もう二十年以上昔の話なのですが、ある演劇学校に通う青年は、講師の前で演技をすると必ず緊張して上手く演技ができなくなるという悩みで来談しました。彼の悩みを聞いた後、心身相関の説明をしてから、シュヴリゥルの振り子運動という、催眠の前によくやる被暗示性テストというのをやってみました。

 シュヴリゥルの振り子運動では、糸の先につけた重りを目の前にかざして動く動くと念ずると、糸に吊るした重りが勝手に動き出すのです。そのことに彼はとても驚き不思議がっていました。その後に「私たちの意識は勘違いしている。身体は常に意識でコントロールしなくてもそのほとんどを身体自らが勝手にやってくれている」ということを説明し、軽い催眠も試して初回の面接を終了したのです。

 二回目に来た時には彼の悩みはもう解決していました。彼の言うには、初回面接に来談した後日、テレビでフィギアスケートの放映を観たそうです。フィギアスケートでは周りに観客がいてスケートの演技を行う選手を応援します。彼はテレビでそれらを観ていて大きな気づきがあったのでした。 それをまとめていえば「そうか、実際に演技をする時にはそれは身体に任せよう。自分(意識)はフィギアスケートを周りで見ている観客のように、見守り応援する側にいれば良いのだ」ということだったようです。

 その気づきの後に彼は演劇学校に行き講師の前での演技さいに、身体にまかせるような感じでやってみたのです。すると、その役の感情まで立ち起こってくる感じでうまくやれたのです。それまでの彼は、演技を完璧にこなそうと思うあまり、そのいちいちを意志の力でコントロールしようとし過ぎていたのでした。

 あがり症のために、音楽の発表会でお手本の演奏をすることが恐怖になっていたある楽器の先生がいました。その方は心理面接の中で自分自身と向き合われて、長年親しんできたその楽器が、ただ好きという以上のものであることに気づきました。子供のころから大好きなその楽器と触れ合い演奏することが、思っていた以上の大きな支えとなっていたことを再認識したのです。 そこで催眠を用いて、その楽器と触れ合い演奏できる喜びを再認識しながら、楽器と一体になって演奏しているイメージトレーニングを行ったのでした。その成果として何よりも素敵だったのは、その後に自宅で演奏練習をしていた時に「心からこの楽器が好きだ」と思えて涙が止まらなくなったことです。

 大きな支えとそれとの一体感があればもう怖いものはなくなりますね。「人がどう思おうと私は私の道を行く」というようなあり方が自然に強くなります。人目など気にならなくなるのです。このような一体感は楽器にだけとは限りません。「自分と一体になる」というのもあります。それは自分を信じるということであって「自信」ということに繋がる話です。

 ただ単に自信を持ちなさいといわれてもそれだけで自信を持てるようにはなれませんよね。でも催眠イメージトレーニングを用いれば、スポーツでも楽器演奏でも、または自分自身とでも、心身一体となって、本物の自信を持ってのびのびやっていくコツを会得することができるのです。

参照ページ

催眠療法
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インナーセルフ療法
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