心理療法で心の悩みを解決するための道すじ

 問題を抱えて悩んでいる場合にその当人は自分をわずらわせている問題自体を解消したいと思うのが普通です。例えば夫婦のトラブルの場合に、自分の方が悪いとハッキリわかるような問題があるのでないかぎり、自分が変わらなければならないと思う人はほとんどいなくて相手に変わってもらいたいと考えます。人としてはそれが通常のあり方です。

 神田橋條治先生は名著『精神療法面接のコツ』の中で「自分自身変わることなくもっぱら環境を操作し自分にあうよう変えていく能力、が異様に肥大したのが、ヒトである。したがって、困難にさいし、外界を操作することで解決を図るのが、ヒトにとって最もふさわしい進化した対応である、、」と述べています。

 時に、催眠療法で過去の(忌まわしい)記憶を消すことができないかと問い合わせてくる方がいます。そこには自分が変わらねばならないという思いは全くありません。またカウンセリングしている際に「これは自分の性分だから変わりようがない」と、変わることなどありえないと思い込んでいる人もいます。

 けれども特殊なトレーニングによって行動の変化を目指す行動療法以外の心理療法では、そのほとんどが自己変革を目標としているのです。心理療法で自分をより成長(自己変革)させていこうとすることは、人としてよって立つバックボーンを変えることでもあって、極端には心が一度死んで生まれ変わるような仕事なのです。そのような心理療法(自己変革)を用いてカウンセラーがクライアントを援助しようとする時にズレが生じやすいわけです。ここに心理療法の始まりでの難しさがあります。

 私の場合は、大仕事となる本格的な心理療法をクライアントにすぐ勧めるようなことはしません。最初は「とにかく楽になるやり方を考えていきましょう」とか「心と身体がバラバラでは良くなるものも良くなりませんから自分自身や身体と仲良くやっていけるような工夫をしましょう」などと言って、実際にそうなれるような心理技法を試してみたりします。

 そのように、はじめは自分が「楽になるために」心理療法に取り組んでもらうのです。すると短期間でずいぶん楽になったので、と言ってそれで心理面接を終える方もいます。またそのようにあれこれ工夫している中から次第に、自分がもっと変わる必要があるのだなと自覚したり、より本格的に自分に取り組んで行こうとする方もいるのです。

 神田橋先生は「自己を変ずることを目指す精神療法は多いが、そのさい、自己を変ずることは最終目標なのではない。外界を操作することで解決を図るというヒトとしての能力、を増大させるという最終目標のために、それがしやすくなる方向へ自己を変ずるのである」と述べています。このように考えれば、心理療法をやることにどんな意味があるのかわかってきて、クライアントの人生での位置づけもできますね。


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