野田式催眠理論

 野田式催眠では、実は催眠状態の方が普通であって、覚醒しているとか意識している状態のほうが特殊なのであるといいます。普通の催眠のとらえ方とは正反対で、まやかしっぽい言い方ですよね。でもこれ、いがいと真実なのです。

 この考え方が正しいかどうか?まずは催眠とはどのようなものか、という基本のところから考えてみましょう。催眠療法は心理療法の歴史の中で一番古くからある治療技法です。でもそれほど古くからある催眠なのにちゃんとした理論はありません。みなそれぞれに催眠とはこういうものだといってはいますが、それらは部分的なものであって、催眠の全てをひっくるめたような理論がないのです。

 でも、私に言わせれば、催眠は『感情移入(集中)』と『自我放棄(移譲)』の二つであっさり説明できるのです。催眠(トランス)状態とは「その気になったり夢中になって、我を忘れて(誘導者にあけ渡して)しまった」状態ということです。一部ではこれと似たようなふうにいわれることはあったのですが、このとらえ方をメインにして催眠の理論としたものは今までありませんでした。

 例えば、日本の学術的な場では成瀬悟策氏の「催眠とは人為的に引き起こされた状態であって、いろんな点で睡眠に似ているが、しかも睡眠とは区別でき、被暗示性の高進および、ふだんと違った特殊な意識性が特徴で、その結果、覚醒に対して運動や知覚、記憶、思考などの異常性が一層容易に引き起こされているような状態を指していう」などといわれています。

 これを読んでいると、催眠状態ってよほどの特別な意識状態なんだなぁ、、と思えてきますよね。催眠トランス状態は「変性意識状態」とも名付けられています。この言葉だけでも催眠状態は特別な意識状態なのだとの思い込みができあがってしまいます。でも実は催眠と同じ心理状態は日常でしょっちゅう起こっているのです。成瀬先生のいうような「ふだんと違った特殊な意識性」ではなくてその逆に、ふだんに頻繁にある意識状態なのです。例えば何かに没頭しているときは、その全てが催眠状態と同じく我を忘れた(我をなくした)意識状態なわけですが、そんなことは日常にしょっちゅうありますよね。

 脳神経学者の ベンジャミン・リベット『マインド・タイム  脳と意識の時間』にいわせれば、その実験結果からすると、人間の意識は実際の行動より0.5秒遅れてあたかも今それをやっていると思い込んでいるというのです。この論を推し進めていくと、人の日常はそのほとんどを無意識的行為が占めていて、意識はただそれらを自分でコントロールしていると思い込んでいるだけということになります。もちろん意識もいろいろやってはいるでしょうけど、その量たるや、ビット数に換算すると人の心身の情報は1100万ビットという凄い量なのに、意識の方にあがるのは50ビットという微量なのです。

 ベンジャミン・リベットの実験結果や、意識の働きはたかだか50ビットということから更に考えを推し進めていくと、人は、催眠状態と同じようにその日常のほとんどを無意識的な行動で過ごしていることになります。このことが冒頭に書いた、催眠状態の方が普通であるということです。意識って、身体とは別に頭で四六時中考え続けているせいか、いつのまにか自分が全てを統制しているように思い込んでしまったのですね。

★参照ページ『催眠の正しい理論



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