心の傷を癒す睡眠

 睡眠を充分取ることは身体の健康だけでなく、心の健康にとっても非常に大切です。ところが最近は睡眠不足の人が昔に比べ増える傾向にあるのです。これは当相談室に来談される、差し迫った心の問題を抱えた方の話だけではなくて現代人全てに共通していえることです。科学の発達によってさまざまなことが便利になったのはとても良いことです。便利になればゆとりが出るはずなのに、でも時代は逆にスローライフから遠ざかるばかりですね。生産性を高める効率(主義)化、イコール過密スケジュールとなってしまったのです。おかげで睡眠をたっぷり取るような無駄な時間はなくなってしまいました。

 私の敬愛する禅の、井上希道老師は近年、参禅する方の中に疲労の溜まっている方が増えてきた、と言います。広島の少林窟道場に上山して禅修行に入ると、それまでからだに蓄積していた疲労が表面化してきて、坐禅中に眠気が出てくる人が多くなっているのです。井上老師は「疲れて集中力がないままに修行をしても良い結果は出ない。まずよく眠って疲れをとり、集中する気力を回復してから修行をしろ」とよく言われています。

 当相談室で不定期に開催している催眠セミナーに参加される皆さんにも、セミナー途中で、催眠を利用したリラクゼーションを行うと、昔に比べより多くの人が睡眠に移行します。忙しい毎日を過ごしていて睡眠不足気味だったり、うつ状態までいかなくともかなりの疲労が溜まっていたりしているのです。能力開発の前に疲れを取ることが先決となっています。

猫

 統合失調症治療の第一人者であった精神科医中井久夫氏は『精神科治療の覚書』の中で「統合失調症の発病前には必ずといっていいほど睡眠障害がある。統合失調症から回復した人が不眠に気をつけて再発せずに済んでいる場合も少なくない」と述べています。またネット上の情報『心の傷を治すのは時間ではなく睡眠・・・』では、米国カリフォルニア大学神経科学者マシュー・ウォーカー氏が「睡眠に多くの重要な働きがあるがその一つが、心の健康を維持しやすくするという働きなのだ」と話しているとあります。彼の研究チームの睡眠に関する実験からは「睡眠(特に夢を見ているレム睡眠)には心の傷を癒す効果がある」という結果が出たそうです。

 睡眠時間はただ長ければ良いというものではありません。質の良い睡眠のために、できるだけリラックスして深く眠れるようになるための工夫も大切です。図式としては『心がほっと安心する⇔身体がリラックスする⇒深い睡眠⇔レム睡眠時の解放調整作業の活発化』という感じで心身の調整作業は深まっていきます。そうなるには入眠の前に、心がホッとしたり、楽になったり、伸び伸び解放されていたり、また身体がほぐれてできるだけリラックスしていたりする必要があるのです。


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