夢は全てを知っている

夢は知っている

 横浜の中区で心理相談室を営んで30年以上になりますが、それに先立つ30才の頃に私は「魂のことをずっとやっていこう」と決心したことがあります。「私の人生は心の修行者でいこう。やってやるぞ!」と意気軒昂でした。岡本太郎の「危険な道をとるか、安全な道をとるか。迷ったら、危険な道をとる」という有名な言葉がありますが、それにも後押しされてそう決めたのでした。無謀にも。自分の器もよく知らないままに。

 ちょうどその頃、河合隼雄先生の書いた深層心理学の本を読んでいました。その本には「無意識はすごい世界である。自己実現の道はとても素晴らしいものではあるが、生易しいものではない大変な道でもある」などと書いてありました。でもやる気満々の私はそれを読んでも「ホウそんなものかね、私なら大丈夫」などと高をくくっていたのです。

 ところがその夜に見た夢は、凄いしんどい夢でした。

台風で増水しすごい濁流となっている広い川。
私はその川の中を向こう岸に渡ろうと必死に泳いでいる。
激しい流れの勢いに私はどんどん川下に押し流される。

 というものだったのです!ビックリして、その夢を見た直後に目覚めました。

 夢は、あまりにも甘く考えている私に業を煮やして「お前はわかってないなぁ。こうなるんだぞ」とばかりに伝えてきたのでした。 その当時はそんな夢を見ても私の「心のことをやっていきたい」という欲求は止まりませんでした。でもその夢から35年近くたってみても、確かにその通りだなぁ、とつくづく思います。 この歳になっても未だに、川下に押し流されながら濁流を泳いで渡っている感があるのです。はたして死ぬまでに向こう岸に泳ぎ着けるかしら。向こう岸に泳ぎ着いたときは死んだ時なのかも。それとも向こう岸にはつかなくてもしぶとく生き伸びて大海に着くという手もありますが。

自律訓練法とヨーガと夢の活性化

 私が夢日記をつけはじめたきっかけは40年ほど前に、自律訓練法の記録をつけ始めたメモ帳に夢を書きとめたのがはじまりです。私はその当時、自分で自分に暗示をかけるという自律訓練法を会得しようとしていました。でもうまくいきませんでした。頭でっかちで思考に頼りすぎていて、 自分の心身が感じ取っていることや発していることに目を向けることができなくなっていたからです。でもなんとか会得したいと、挫折してはまた気を取り直して試してみるというのを繰り返していました。

 そんな工夫の中で、ヨーガのアーサナをやってから自律訓練法をやるという方法を試みてみたのです。すると、夜寝る前にヨーガと自律訓練法をやってから眠りに入って、おおよそ三十分から一時間くらいたたった頃、今までにないビックリするような強烈な夢を見て目覚めたのです。「アレレ~これはなんだ」と、手元にあった自律訓練法の記録帳にその夢をメモったのでした。

 そのはじめて夢の記録には、自律訓練法をやる前にフロイトの本で夢のところを読んだりして、その後に自律訓練法をやって眠ったと記してあります。なんという無意識のノリの良さでしょう。まるで判で押したように、夢の本を読んだらそれをきっかけに今までにないほどに強烈な夢を見たわけです。それは思わず書きとめずにはいられないほどに私の人生ではかつてない強烈な夢だったのです。

 フロイトの精神分析にはそれほど興味が持てなかったのでそれっきりだったと思いますがその後、自律訓練法をやりながら眠ると強烈な夢を見てはビックリして目覚めてしまうことが時々起こるようになりました。そのやり方が私の心身にはマッチしていたようで、私の自己治癒力は夢にも現れるくらいに強く活性化されたのです。何時も、というわけではなかったですが、ヨーガ+自律訓練法をやりながら眠り込んでおおよそ三十分くらいたつと強烈な夢を見て目覚める。という定番パターンです。

 その頃の夢で今でも良く覚えているひとつはこんなのです。

自分が今寝ているベッドで、身体がでんぐり返りはじめる。
それからどんどんどこまでも沈んでいく。死ぬ感じ。
からだがジーンとなって、両手の指先から放電する。
その指先には赤黒く焦げた放電穴ができている。

 面白いことに、どこまでも沈んで行くことが死ぬことなのでは、と不安に思いながらも、どこかで気持ち良さを感じてもいました。

 自律訓練法では、訓練を行っていると脳の放電を必要とする活動部位が活性化されその結果、各種の反応が出現するとみなしています。そのことが書かれていた自律訓練法の本をその当時私が読んだことがあるかどうかは定かではありません。でも私の見た夢はまるでこの「脳の放電」そのままの夢でした。おもしろいことに夢分析の方では、フロイト派の夢分析を受ければフロイト心理学的な夢を見るし、ユング派の分析家にかかればユング心理学的な夢を見ると言われています。私は自律訓練法にかかったので自律訓練法(自律性解放)的な夢を見たといえるのでしょうねぇ。夢って不思議です。

 その後は印象的な夢を見て目覚めた時にすぐに書きとめたり、反復しておいて後で書きとめたりしてきたのです。おかげで私の人生「こんなはずじゃなかった」というのはなくなりました。大事なことは夢なりに、こうだよと教えてくれているので「やっぱりそうだったか」などと納まりがつくのです。そうなんです、私が間抜けでも夢先生が賢いので助けられて何とかやれているわけです。

 ところでその後に知ったのですが、ユング心理学の創始者カール・G・ユングはその著書「ユング自伝1」の中の無意識との対決の章に、フロイトと決別した後に無意識からわき起こってくるイメージに昂奮し激情した際にはヨーガの行を行い、自分を静めたとあります。そして自分が静まったらまたそのイメージや内的な声が語りかけてくるのを許して受け止め観察・対決していったようです。日常に出現してくる統合失調症の幻覚、幻聴に匹敵するような無意識からのビジョンやイメージなどをヨーガの行によってコントロールしながらそれに対決していったとは、やはり天才ユングにしてできる凄いことです。

 ユングはその本でインドの人たちはヨーガの行を多くの心の内容やイメージを完全に抹消するために行うのである。とも書いてあります。でも私がヨーガ+自律訓練法をやった結果は一見、まったくその逆の活性化ですよね。

 凡人の私は幸か不幸かユングのような天才の持つイメージ力・想像力や、それを受け止める力は全くなくて、大げさにいうと無意識とは切り離れたところの頭の中だけで(強迫性障害的に)生きていたのでした。ですから私の場合は無意識と切れかかっている、そこをまず回復する必要があったのです。ということは無意識(自己治癒力)の働きを活発化するためにヨーガを取り入れたことになりますね。最終的にはユングも言うように抹消に向かうわけですが、ヨーガが沈静化にも活性化にもどちらにも役立つとても優れたものだということなのでしょう。

 催眠療法から派生した心理技法である自律訓練法にしても、身体の柔軟性を追求していくヨー ガのアーサナ(体位法)にしてもその基本は心身の深いリラクゼーションにあります。ヨーガや自律訓練法でなくとも、深くリラックスする(緩む)ことで、心身の偏りや滞りが緩和されて心的エネルギーが(例えば脳のシナプスの流れなど)正しい道をのびのびスムースに流れやすくなるのです。例えば、足のかかとを入念にマッサージ棒でホグしたり、また他には頭をマッサージ棒で入念にホグしたりして寝たときにもかなり強烈な夢を見て目覚めたことがあります。

 夢は脳内の放電作用のモニター役だけではありません。私の生きる道を濁流の中を泳ぐ大変さで的確に例えて見せてくれたのは、夢が教えてくれるというより叱るつもりだったかもしれませんが。でも夢先生はかなり親切です。何かに真摯に取り組んでいると、そんな人を健気に思うのか、夢先生の対応も顕著になってきます。

 私の知り合いは、高校生の頃に数学の問題が解けずに諦めて寝たら、その問題が解けた感じの夢を見たのでした。それですぐに起き出して、その問題に再度取り組んでみたら今度はすらすらときれいに解けたそうです。大助かりですよね。あなたもそうなれるかも。 ぜひ夢に教えてもらいましょう。慣れるまではちょっと取っつきにくい先生ではありますが、無料で相談に乗ってくれますよ。

★参照ページ:『夢と脳科学と物語の関係』『夢は心の掃除から整理、整頓までしている』『夢は教えてくれる



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